月刊「MICEJAPAN」

2022年10月
日本にDMCの起源とデスティネーション・マネジメント

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小林 裕和
Hirokazu KOBAYASHI
國學院大學/相模女子大学大学院。

1.はじめに 
1-1 研究の背景と目的

観光地を事業活動の拠点とする旅行サービス事業(筆者はこれを「地域旅行ビジネス」と称している)の一つに、デスティネーション・マネジメント・カンパニー(DMC)と呼ばれる業種の企業がある。筆者は、2004年ころに業務でシンガポールやタイでインセンティブ旅行市場の調査を行った際、「MICE」という呼称とともにDMCを知る機会があった。ラグジュアリークラスのホテルへのヒアリングから、インセンティブ旅行を扱う際にはDMCと協業することがある、という。当時は、MICE、DMCという用語は、日本の観光業界でもほとんど知られておらず、そのコンセプトを理解してもらうことに非常に苦労をした経験がある。実際、ミーティングビジネスの専門家団体であるMPI(Meeting Professionals International)の日本組織を1995年に立ち上げた浅井新介氏によれば、日本でMICEと言う造語が大きく取り上げられたのは、2007年度に国のビジット・ジャパン・キャンペーン「YOKOSO Japan」の推進を受け、日本航空㈱とJTBグループが協力して「Inbound MICEに積極的に取り組む」というプレスリリースだった、という(浅井新介(2009))。

DMCは旅行目的地を主な事業活動の拠点として、企業(コーポレート)から発生する会議(ビジネスミーティング)やインセンティブ旅行を扱い、その分野に専門的な知識やスキルを持つ。しかし会議、インセンティブ旅行の市場は、企業から直接生じる活動のため、統計などにより把握がしづらいこともあり、実態があまり知られていない。

またDMCはビジネス需要を取り扱うだけでなく、SIT(Special Interest Tour。特別な目的に絞った旅行のこと)などの観光性需要も取り入れて発展してきており、観光地におけるツアーオペレーターとしての期待もされ、ランドオペレーターやインカミング・ツアーオペレーターとの境界もあいまいになってきている。はたしてDMCは、地域を事業拠点として旅行サービスを提供する事業を営むプレイヤーとして、どのような事業実態なのであろうか。

また、昨今、観光地の経営の観点から観光地域づくり法人(DMO)に焦点が当たっており、DMOは観光地の発展には欠かせない組織となっている。しかし旅行客の観光の体験は、直接的には地域の各企業のサービスを通じてなされる。その意味では観光地の発展は、そのような観光地域を拠点とする企業の発展なしにはあり得ない。すなわち、DMCが観光地の競争力向上に資する事業活動を行い、持続的な観光地の発展に貢献できるとしたら、それはどのような役割を果たしているのだろうか。

そこで、本研究はこれまであまり日本の観光研究において焦点が当てられてこなかったDMCを研究対象として、日本におけるDMCの事業実態を確認し把握することと、そしてDMCが、MICE開催地の価値を高めるための取り組みの過程を通じて、観光地域の発展に果たす役割と貢献について明らかにすることを目的とする。本研究によって、DMCに関する学術的知識と実務のギャップを埋め、DMCの役割や貢献を明確にすることによって、地域における雇用創出や、観光イノベーションの担い手としてのDMCの育成や振興の示唆とすることを、本研究による意義とする。

 


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