異分野研究者交流が創る未来
「AIRAPT」は、国際高圧力学会が1965年より2 年に一度、欧・米・アジアを中心とした各国の持ち回りで開催する高圧力に関する学際的な国際会議で、日本では京都と東京での開催実績がありました。
2025年開催の「 AIRAPT-29」 は、コロナ禍で当初2021年の開催を予定がずれ込み、2023年にイギリス・エジンバラで開催された「AIRAPT-28( 参加者約500名)」において、競合のラスベガスを抑え松山市での開催が決定しました。主催は、国際高圧力学会と日本高圧力学会およびアジア高圧力会議となります。
物質は、圧力と温度の2つの変数によって構造が変化します。温度による変化はわかりやすいですが、圧力では例えば理論上では400万気圧をかけることで水素が金属になり、5万気圧以上の圧力がかかる地球深部では炭からダイヤモンドが生成されるなど、圧力は物質に大きな変化を起こすことができるのです。食品でも生卵に圧力をかけると、ゆで卵になるんです。ジャムをはじめ食品加工への高圧力の活用など、生活の身近なところでも「高圧力」の研究が進んでいます。
こうした圧力に関する科学・技術を追求する学会が高圧力学会で、高圧力を利用した物理学、地球科学、材料科学、化学、生物科学、食品科学など、多様な領域にまたがる学際的な研究者の集まりであることが特徴です。
特に日本は、昔から高圧力の科学・技術分野で先進的なポジションにあり、現在500~ 600人の研究者が活躍しています。しかし日本もそうですが世界においても、会員の多くが自身の学問分野に関するメインの学会に所属し、加えて学際的な高圧力学会に参加しています。
高圧力を軸に、自身の研究とは異なる分野の研究者との交流を実現することが、この学会の大きな魅力です。近年も、日本のこの分野のある研究者が高圧下で生みだした結晶が、ノーベル賞を受賞した「二次元物質グラフェンに関する革新的実験」に使えることがわかり、想像もしなかった広がりの中で、その結晶を作った人自身がノーベル賞候補になるという快挙が起こっています。私も2003年に発表した世界一硬いダイヤモンドの合成(ヒメダイヤ)に、住友電気工業アドバンストマテリアル研究所の研究員らとの共同研究グループで成功しました。実はこれも失敗からの副産物でしたが、現在では、世界約30の研究グループとヒメダイヤを用いた共同研究を進めています。